「病気の診断とは病名をつけることではなく、この病的状態がこの患者に何故起こっているのかを知ることである。
これは以前から何度も書いた見解であるが、しばしば誤解される。
診療は独りでは成り立たないので、勝手な名称や記号をつけるわけにはいかない。
わかりやすい共通の言語、概念が必要となる。
その約束事を学生の時に学び、教室に入って経験するが、大学によってかなりの違いがある。
自信のない教授は教室員がほかの大学にいくことを許さないし、他からのぞかれることを嫌う。
皮膚科医になって、4~5年もすると、患者から学ぶことにより自分の皮膚科学を体系づけることが可能となり、いままでの教科書はいかに眉唾ものが多いかに気づく。
同時に健康保険用の病名も知らなければならない。」
これは、私の尊敬する西山茂夫北里大学名誉教授の言葉です。
わかりやすくいうと、「診断する」ということと「病名をつける」ということは違うのだ。
病名の理解、考え方はその医者、その医者によって違うのだ。ということです。
私も全くその通りだと思います。
病気を治すのに、病名など、どうでもいいのです。
それよりも、何故このような病的な状態があなたに起こって、治らなくなってしまったのか?が問題でしょう?ということです。
例えば、アトピー性皮膚炎。
どういう状態をアトピー性皮膚炎と呼ぶかは、上にかいてある通り、医者一人一人で違います。
一応、皮膚科学会の診断の指針はありますが、これに書いてあるとおり、診断している医者は多分少ないと思います。
何故なら、患者さんは一人一人、その経過も状態も皆違うからです。
病名にこだわらなくてはいけないのは、むしろ医者の方なのです。
何故なら、学会で発表したり、論文を書いたりするのに、決まった定義のある病名や言葉を使わなくては、他人と意見を交換したり、論争したりできませんからね?。
ある患者さんの状態を、ある医学者がアトピー性皮膚炎と呼び、ある医学者が乾燥性湿疹と呼び、ある医学者が乳児湿疹と呼んだら、同じ土俵では話し合いができないでしょう?
そのために、日本皮膚科学会がわざわざ診断の指針を作ったんですよ。
これは、患者さんの為に作ったものではないのです。
ここの所をなんとかわかっていただきたいと思っています。
ですから、くれぐれも病名にとらわれることのないようお願いいたします。