「仕事や勉強など、何かに熱中しているときには気にならないが、ボーッとしていると、皮疹もひどくなり、かゆい」
「一度治ったように見えたのに、受験期や忙しいときに再発した」
アトピー性皮膚炎は、よくこんな起こり方をする。
また、ずっと同じ薬を使っていて、それまであまり効かなかったのに、 突然 効き始めたりするのも不思議だ。
日立総合病院(茨城県日立市)皮膚科の行木弘真佐・主任医長は、こうした たくさんのナゾを考えているうちに、心理面に着目した。
そして、1989年の春ごろから、 患者のタイプに応じ て絶食療法を取り入れ、好成績を上げている。
「人間というのは、心と体が一体になったものです。薬だけに頼ったり、人になんとかしてもらおうという他力本願の気持ちでいては治りにくい。
『自分の病気なのだから自分で治そう』と考えることが大切です。絶食することで、そのきっがけをつかんでほしかった」。
それにしても、いろんな心理療法があるなかで、なぜ、「絶食」なのだろうか。
「いまの日本では飢えることなんかないですから、絶食は非常にインパクトが強いんです」と、行木医長はいう。
これは東北大方式といわれる絶食療法を応用したもので、当然ながら入院して行なう。
10日間の絶食をしたあと、5日間かけて復食していく。 絶食期間中はアミノ酸やビタミン類の点滴こそあるものの、口にするのは水とお茶だけ。
面会、外出はもちろん、新聞、テレビ、カセット、CD、読書などもいっさい禁止と、かなり厳しい。
この15日間を乗り越えることで
▼空腹、アトピーの一時的悪化など種々の症状を克服する
▼自分自身の気持ちと症状の相関関係を自覚する
▼何もしないのによくなってくる自然治癒力の爽快感
▼「自分が、なぜ、いま、これをやっているのか」、あるいは「自分と周囲との関係」などを深く考える自己洞察
▼やりとげたことに対する自信と満足感などが体験できるという。
行木医師のもとで、これまでに絶食療法を受けたのは16歳から29歳の患者7人で、まだ数は少ないが、好例を紹介しよう。
ストレスを克服して明るい性格に変わる会社員のAさん(29)は、15歳のときに発症して以来、アトピーに苦しんできた。
抗アレルギー剤の内服とステロイド軟膏などの治療を統けていたが、よくならなかった。
アレルギー反応の度合いを示す血清中の総IgE抗体値は7500単位(正常値は500以下)と高値だった。
Aさんは入院してすぐ、症状がおさまりかけた。
が、絶食3,4日目ぐらいにストレスが高まったためか皮膚症状もかえって悪化し、かゆくて掻きむしるほどになった。
しかし、絶食が終わるころになると落ち着きを見せ、退院時には症状もかなりよくなってきた。
心理的にも、以前はいわゆる仕事の虫だったのが、「仕事は楽しんでやらなくちや」という心境に変わっていった。
その後は、ステロイド軟責や抗アレルギー剤などを使ったごく一般的な皮膚科の治療とカウンセリングを続け、現在はもうほとんどよくなっている。
残りの6人も、Aさんほどではないにしても、いずれもいいほうに向かっているという。
「『自分のこの病気はもう治らないんじゃないか』という考えから、明るく前向きの考え方に変わってくれたら、もうそれだけで意義があると思います」と、行木医師は言っている。
(現在は、絶食療法はやっておりません)
(アトピー性皮膚炎を治す:週刊朝日編:1992)