よく人は、痒いときは我慢しなさい、掻いてはいけません、と言います。
私も 小さいときから親からよく言われていました。
そして、それに従っていたわけですが、何か漠然と納得できないものがありました。
そして、それは医者になってからもずっと続いていました。
なぜ痒いのに掻いてはいけないんだろう?俺の体なんだから俺の勝手だろう?と。いいじやないか掻いたって。
そうです。掻いたっていいんです。でも………。
痒いときに掻けないのは苦痛です。これは誰でもおそらくわかってもらえるものと思います。
お母さんでもお父さんでも、虫に刺されたとき、蕁麻疹ができたときに、どうしているか?を思い出してみればすぐわかると思います。
自分だけ痒いときに掻いて、他人に、子供に言うときだけ、掻くな!掻いてはいけない!では、ちょっとずるいのではないでしょうか?
子供の気持ちになってちょっと一言。
「皆に私のこの気持ちが分かるはずがない。痒くて痒くて死にそうなんだから。もう。この痒みがどれくらいのものだか、お母さんにわかるわけない。病気になっているのは、私なんだから。」
私から一言。
「そりゃ、その通りだ。」
以上の会話は冗談ではありません。本当にそうだと思っています。
掻くと 「トビヒ」になるのではないか? 掻くと病気が悪くなってしまうのではないか?と、ご心配される方もいらっしゃるかも知れません。
しかし、私の経験上そんな事はありませんでした。
もう少し言えば、体の抵抗力が落ちて「トビヒ」になるのだし、病気が悪くなるから痒みが強くなるのです。
ですから、痒みが強いときは、掻くのを止めさせるのではなく、掻いてあげていいのです。
そして、なぜ痒みが強くなったかを考えたり、なぜ病気が悪くなったかを考える事が必要なのです。
それを一緒に考えるために皮膚科のお医者さんがいるのだと思っています。
それを考えようとしないでただステロイド軟膏をどんどん処方する医者は、皮膚科医としては失格であると考えています。
「掻く」という行為は自損行為であるととも自慰行為なのです。
掻くことは何と言っても気持ちがいいのです。これは理屈抜きで快感なのです。
よく母親が何でそんなに掻くの?と子供に聞いている光景を目にしますが、「掻く」事に意味があるとすれば、その答えは快感だからです。
世の中、他に快感を感じられる事が山のようにあると思うのですが。
私は、掻く掻かないの善悪を言うつもりも、決めるつもりもありません。
掻きたいなら掻けぱいいし、掻きたくないなら我慢すればいい、と思います。所詮、自分の問題だ、ということです。
そうだとすれば、気分的にも肉体的にも楽なほうがよいと思います。
病気が治るかどうかは、もっと全く別のところにある、と思っています。
ちなみに私は、痒くて引っ掻き傷だらけの子供が来院すると、妙に安心してしまうのですが、ちょっと病気でしょうか?